コリドーの童貞さん vol.4

ナンパに慣れてきた25歳の童貞リーマン洋平。

今宵はコリドー街にて3人組でのナンパにチャレンジする。

第1話はこちら

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金曜日がやってきた。21時頃、僕は田口さんと、僕の親友で田口さんの後輩である幸雄(第1話参照)とコリドー街のスタバ前で集合した。

「洋平、今日は初めての3人でのナンパだな!」
田口さんが言う。

「高まってきました!」
僕が答えると幸雄が横から茶化してくる。

「田口さんとナンパしてちょっとは成長したか?ww」
幸雄と会うのは3週間ぶりだ。先週、先々週とナンパをして少し慣れてきた僕の力を親友に見せる時が来た。

コリドー人多い

「それじゃ男女3-3以上の飲みのポイントだけど‥」
田口さんが続ける。

「これまでのコンビのとき以上に勢いが大事になってくる。」

「勢いですね。」
ふと対向車線を見ると、ついさっきまで僕の隣にいたはずの幸雄が女性3人組に声を掛けていた。学生時代ずっとキャッチをやっていた彼はとにかく動き出しが早い。

「大人数の場では、思い付いたらどんどんボケを放り投げてっていい。そして周りがどんどんツッコんで場を温めていく。」

「けどそんなボケを入れようとしても滑ったらどうしようって思っちゃうんですよね。。」

「滑ってもいいんだよ。もし滑ったら周りの奴が『滑ってるよ』って指摘して酒を飲ませればその流れすら場を温める追い風になるんだ。」

「なるほど。」

「あとは男でじゃんじゃん酒を飲むこと。ナンパとか合コンで大切なのは、女に酒を飲ませるんじゃなくて、女が酒を飲みたくなる場を作ることだ。」

「男同士でめっちゃ飲んでると女の子もなんだかんだノリで結構飲みますよね!」
声掛けが失敗したのか、いつの間にか僕の隣に戻ってきていた幸雄が言う。

「そうそう。幸雄の勢いと飲みっぷりはすごいから、洋平の参考にもなると思うよ。」

「お褒めの言葉、光栄です!」

僕らが話していると、有楽町方面から女性3人組が歩いてくるのが見えた。

女3人影

僕が視認した時には既に幸雄は女性3人組の方に向かっていた。

「今日の合コンは何点でしたか!」
スナッパーの前で女性陣の横に並んだ幸雄が話し掛ける。

「え!何で合コンって分かったんですか!」
女性の1人が反応した。

「だって合コンハズレだったからコリドー来ましたオーラばりばり出てますやん!」幸雄が答える。

「どんなオーラw」

「奇跡的に3-3で人数比も一致してるしここで軽く飲もうよ!スタバの系列なんだよね。」
僕も続く。

「いやスナッパーじゃんw」
女性陣の反応は悪くなさそうだ。

「どうする?」
3人は話し合いを始めた。

「俺達も今日の合コンハズレで途方に暮れてたところなんだよね。こっから合コン2回戦始めようぜ!」
田口さんが最後の一押しをしてくれた。この人は本当に息を吐くように嘘をつく。

「じゃあ行こっか!」
無事合意が成立し、僕達はスナッパーに入った。

スナッパー

ここで今日の対戦表を紹介しよう。

【男性陣】

・田口さん(弁護士。27歳)

・幸雄(司法試験合格発表待ちのニート。25歳)  

・僕(銀行員。25歳)

【女性陣】

・優奈(ハーフ系の美人。24歳)

・莉子(薄めの顔で並みを少し超えたくらいの可愛さ。24歳)       

・和子(澤穂希のガタイを良くした感じ。可愛くない。25歳)

田口「合コン相手はなんの人達だったの?」
席に着くと田口さんが切り出した。

優奈「外銀の人達!」

幸雄「良さそうじゃん!何で1次会で解散になったん?」

優奈「んーあんまり勢いがなかった笑」
外銀は元々真面目な人が多いため、お金を持って遊ぶようになっても、商社などと比べると勢いがないらしい。

田口「もしかして3人はぶち上げ系の方々?」

莉子「ぶち上げ系ってなにw」

田口「外銀達からちゃんとタスキは受け取ったから、俺らで3人のぶちあげを引き出そう。」

僕「そうですね!引き出して、このタスキをしっかり次の走者に繋げましょう!」

優奈「繋げるんかいww」

幸雄「そこはゴールを目指せw」

駅伝

ナンパの回数を重ねるうちに、僕もこのような男女の場でそれなりに会話ができるようになってきた実感があった。
話しているうちに全員の酒が揃う。

「それじゃあ合コン2回戦、乾杯!」

「かんぱーい!」
戦いが始まった。

簡単に全員が名前を言ったところで一番美人でノリも良さそうな優奈が口を開いた。

優奈「なんで幸雄君だけ私服なの?」

幸雄「おれ?ニートだからだよ。」

僕「幸雄は今年司法試験受けて合格発表待ちなのよ。」

莉子「じゃあ弁護士になるんだ!」

幸雄「9割落ちてニートのままだけど、合格して弁護士になれる1%の可能性に賭けてる。」

田口「あとの9パーどこいったんだよw」

幸雄「今自宅で筋トレ中です。」

田口「幸雄、滑ってるよ。はい飲んでー!!」

幸雄「くううぅ!いただきやす!!」

一気

幸雄が目の前にあるハイボールを空にする。こんなことを言っているが幸雄の司法試験合格はほぼ確実だ。

幸雄「頑張って飲んだことに免じて1個聞いていい?好きな男のタイプは?」
幸雄が莉子に話を振る。

莉子「たくさん食べる人かなー」

幸雄「焼肉30人前くださーい!」

僕「じゃあ僕は50人前ください!」

田口「ここメキシカンだよ。」

莉子「wwww」

田口「和子ちゃんは?」
まだ少し馴染めていない感じの和子に田口が話を振る。可愛くない子のこともちゃんとケアする田口さんはやっぱりすごいなと僕は思う。

和子「私はあんまり冒険しないタイプの人が好きかな。」

田口「俺はマサラタウンからずっと出ないタイプだよ。」

幸雄「今日もコリドーに冒険きてるじゃないすかw」

田村「おっと、こんなところにポッポが3匹。」

ポッポ

僕「ポッポは失礼ですよw」

優奈「ひどーいw」

幸雄「田口さん、女の子怒ってるんで飲んでください!」

田村「失礼しました!いただきます!!」

田口さんも目の前のビールを空ける。どんどんボケを投げ、ツッコミ、男が自ら酒を飲む。この繰り返しにより短い時間で場があったまってきたのを感じる。

幸雄「優奈ちゃんは?」

優奈「タイプとかはあんまりないかなぁ。付き合うタイプはいつもばらばら!」

幸雄「バラバラなタイプの中でも共通項はないの?最大公約数的な!」

優奈「タイミングかなぁ」

田口「恋愛においてタイミングは大事だよね。」

幸雄「今日はタイミングどう?」

優奈「んーまだわかんない笑」

幸雄「めちゃめちゃいいってさ!」

僕「勝手にルビ振ったな笑」

優奈「www」

田口さんと幸雄はテンポの良い会話で女性達の笑いを作っていく。

幸雄「てか今聞く限り3人のタイプってだいたい俺らじゃん。一回みんなで乾杯しよ。」

「かんぱーい!」
そこからはテンポ良く進んだ。女性陣がノリも良く飲める子達ということが分かったので、幸雄が途中でポセイドン(※ テキーラショットガンが30shots入ったプレート)を頼み、みんなで乾杯を繰り返した。

画像8

田口さん曰く、コリドーで抱く時の基本の流れは以下のようだ。
1軒目(飲み屋)→2軒目(カラオケorダーツor宅飲み)→セパ(男女ペアに別れる)

盛り上がりの中、幸雄がカラオケに行こうと打診し、女性陣から快諾をもらった。

「合コン終わりの友達が1人合流したいって言ってるんですけどいいですか?」
莉子が僕達に聞いてくる。

女性が増えるのは大歓迎だ。
「おっけい!幸雄誰か男呼べる?」田口さんが言う。

「ちと探してみますね!」
そう言って幸雄は何人かに電話を始めた。この時の僕達は知る由もなかった。莉子が呼んだ女がとてつもなくビッチであることを。

「こういうみんなでめちゃくちゃ飲んで友達合流したりする回は抱ける可能性高いぞ。」
田口さんが僕に耳打ちする。
僕は期待を込めてカラオケに向かった。

びげちょ

スナッパーからカラオケへの移動中、僕は田口さんから教えられたカラオケでの戦い方を思い出していた。

「まずこれはナンパや合コンに限らず、社会人のカラオケの基本だけど‥」

田口さんは続ける。

「カラオケは自分の歌いたい曲じゃなくて、盛り上がる曲を歌うところだ。」

できるサラリーマンはトレンド曲はもちろん、上司の世代に流行った曲をちゃんと押さえてるとのことだ。

「そんで合コンやナンパでは、機を見てカラオケコールを入れてみんなで酒を飲もう。このサイトにまとめてあるから暇な時見ておきな。」

そう言って田口さんはURL(http://tokyo-namcale.com/gokon/karaoke-call/)を送ってくれた。さくらんぼ、新宝島、キセキあたりはカラオケコールの定番のようだ。

「みんなでくそ飲んで、ぶちあげて、気付いたら男女ペアになってる。それがカラオケの理想系だ。」

期待と不安を胸に僕はカラオケに向かった。

カラオケに着くと、幸雄は1次会の勢いそのままにカラオケコール曲を入れた。するとそれに呼応し、優奈と莉子もカラオケコール曲を入れ始める。

想像以上に飲み会慣れした優奈と莉子に僕は少しビビり始めていたが、田口さんに言われて事前にカラオケコールの予習をしていたので何とか食らいつくことができた。

みんなでカラオケ

何曲か歌っていると、合流組の男女がやってきた。

男性は幸雄の学部時代の友人の弘樹。シュッとした雰囲気イケメンでそれなりに女にモテそうだ。

女性の名前は恵美。クラスで2,3番目に可愛い子というレベル感で、一定数の男から絶大な人気を誇るだらしのないたぬき顔だ。既にかなり酔っ払っているようだった。

2人が来てからもカラオケコールは少し続いたが、気付けばみな男女ペアで話す雰囲気になっていた。

幸雄は最初から優奈がお気に入りだったようで2人で楽しそうに話をしている。

莉子は意外と肉食なのか先程から隣の田口さんへのボディタッチが激しい。

遅れてきた弘樹と恵美は馴染み切れていない者同士2人で酒を飲んでいた。

僕の隣にはブスの和子がいた。

「洋平君って私と同じタイプだと思うんだよね。あんまりこういう飲み会得意じゃないでしょ?」

「う、うん。そうだね。和子ちゃんは格闘タイプかな?」

「もうっ!」和子のボディータッチはまるで鉄球で殴られたようだ。僕は自分の肩が外れていないことを確認する。

女子プロ

それからも和子のアタックは続いた。澤穂希に似ているだけあって、1対1になった時のオフェンスで力を発揮するタイプのようだ。てきとうにあしらいたかったが、「1人のブスの反逆がその場全体を壊すことがある」と田口さんに教えられていたので、頑張って会話を続けた。

しばらくすると和子はトイレに立った。どっと疲れた僕はソファに深く座り溜息をつく。そのままサッカーでもしてきてくれよと心の中で悪態をついた。

すると、和子と入れ違いに部屋に入ってきた恵美が僕の隣に座った。どうやら弘樹はトイレに行っているようだ。

(僥倖‥!なんという僥倖‥!)

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恵美は僕の好みのタイプではなかったが、澤穂希強化版より全然良かったし、何より巨乳だった。

「さくらんぼ歌いたーい!」

席に着くなり恵美は言ってきた。

「さっき誰か歌ってたけど、まいっか!歌おうぜ!」

デンモクに曲を入れ、隣を見ると恵美がうずくまる姿勢になっていた。

酔って気持ち悪いのかもしれない。

「大丈夫?」

僕が聞くと、恵美はいきなり僕の手を握ってきた。

(え‥?)

僕が固まっていると、恵美はなんと、僕の指を突然舐め始めたのだ。

僕は何が起きているかわからなかった。恵美はうずくまっているので、周りから見たら僕がただ介抱しているように見えるだろう。

真っ白になった頭が徐々に冴えていく。1分くらい経っただろうか?恵美はまだ僕の指を舐めていた。

僕は以前した幸雄との会話を思い出していた。

「幸雄は合コンしまくってるけど何がそんな楽しいの?」

「女と飲んでるとさ、来るんだよ。この子抱けるわ。って瞬間がさ。その瞬間がたまんねぇんだよ。」

当時の僕は何を言っているのか理解できなかった。

しかし、今ならわかる。その瞬間は、今この時だ。

深呼吸を1回してから僕は恵美に声を掛ける。

「一緒に帰ろっか。」

うずくまったまま、恵美は頷いた。

僕達は速やかに身支度をした。

「酔っちゃったみたいなんで、一緒に外出ます。」

僕は田口さんに一言声を掛けた。莉子にくっつかれている田口さんは僕に向かってこっそりガッツポーズをした。

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部屋の外に出ると弘樹と和子が話していた。一瞬弘樹と目が合ったような気がしたが、僕は2人に声を掛けずエレベーターホールに進む。

エレベーターを待つ時間はとても長く感じられた。僕と恵美はエレベーターに乗り込み、6階から1階まで降りた。

1階のエントランスに着くと、そこには弘樹が立っていた。どうやら息を切らしているようだ。

僕は会釈だけして恵美と一緒に横を通り過ぎようとする。

「ちょっと待ってくれ。」

仁王立ちでこちらを見る弘樹の目は真剣だ。

仁王

「恵美酔ってるみたいだから行くね!」

「ちょっと待ってくれ。」

どうやらこの門番は進ませてはくれないらしい。

「どしたの?」僕が尋ねる。

「恵美とは俺、いい感じだったんだよ。」

弘樹が続ける。

「だから頼む!!今日は譲ってくれ!!」

弘樹は頭を下げた。

「ちょい待ってくれよ、今は俺が恵美と一緒に帰ろうってなってるんだよ。」

頭を下げられたところでこっちにも引けない理由はある。僕には卒業がかかってるんだ。

「俺がおかしいことを言ってるのは分かってる。けど恵美のことめちゃくちゃタイプなんだ。今止めなきゃ絶対後悔するから。だから、頼む!」

僕は部屋のドアを開けた。

「おかえり。」

そこには満面の笑みの、和子がいた。

結局僕は弘樹に恵美を譲って、カラオケルームに戻ってきたのだ。

『カラオケは自分が歌いたい曲ではなく、盛り上がる曲を歌う』

やけくそになった僕は大事な教えを無視し、尾崎豊の『卒業』を熱唱した。

熱唱

今週の学び

・男女3-3以上の飲みは勢いが大事。思い付くままにボケを投げまくり、滑ったら周りが『滑ってるよ』と指摘して酒を空ける。

・ナンパや合コンで大切なのは、女に酒を飲ませるんじゃなくて、女が酒を飲みたくなる場を作ること。

・カラオケは自分が歌いたい曲ではなく、盛り上がる曲を歌う。

・敵は身内にあり。

(fin.)

次回!コリドーで出会った美女、怜奈とデート!デートの会話法を伝授!

→第5話

コリドーの童貞さん vol.3

梶山洋平。

早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。

フツメン。25歳。彼女いない歴25年。

童貞。

これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。

第1話はこちら

第2話はこちら

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初めてナンパをした日から1週間後の金曜日、僕は再びコリドーにいた。ナンパが楽しいと思い始めてきた僕は、金曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。

20時頃に集合した僕と田口さんはコリドー入り口にある焼肉トラジに腹ごしらえに行った。焼肉を頬張りながら、先週の反省会をする。

「先週の子、かなりタイプだったんですけど、緊張もあって何喋ればいいか全然わかりませんでした。」

「川口春奈ね(第2話参照)!たしかに可愛かった!よし!今日はナンパで連れ出した後の会話について検討しようか。」

「お願いします!」

「まず、大前提として、可愛いからって気後れしたら基本的にその子を手に入れることはできないと思った方がいい。」

田口さんは続ける。

女は相手が自分より格下だと思ったら基本はついてこない。だからおどおどした態度だと綺麗な子を落とすのは難しい。」

「なるほど、意識してみます!」

「それじゃあトークについて話そう。」

田口さんは今日の本題に入る。

「トークについては人それぞれ考え方があると思うけど、最初のうちはボケとツッコミを会話に入れることを意識するのが大事だと思う。」

コント

「ボケと、ツッコミですか?」

「そうだ。女性が話す事や女性からの質問に常にボケかツッコミで笑いをいれて返すのを意識するんだ。」

「それは百戦錬磨の田村さんだからできるんですよ!」

「もちろん慣れもあるし、ツッコミは奥が深いと言われてて、初心者では難しかったりもする。だけどボケは、入れやすいポイントを掴めば初心者でもできることだと思うよ。」

「ポイントですか?」

「そう。特にボケを入れやすい話題は、好きな男性のタイプの話題だ。合コンやナンパだとだいたいこの手の話題になるし、和んできたら自分からこの質問を入れちゃっていい。」

「なるほど、たしかによくある話題ですね。あとで実践してみます!」

「洋平みたいに男の中では普通に話せるし面白いことを言えるけど、女性の前ではうまく話せないタイプは、この自信とボケを意識すれば結構しゃべれるようになると思う。少し特訓してみようか。」

田口さん曰く、ボケはとにかく頭の回転の訓練であるということだ。僕はしばらく田口さんが出す好きな異性のお題に対してボケで答えるという訓練をした。

「それじゃそろそろ行くか。」

僕と田口さんが外に出ると、予報外れの強い雨が降っていた。

「これじゃあナンパ、きついですね。」

僕が言うと田口さんはスタンディングバーに行こうと提案してくれた。雨など外でのナンパがつらい日にはスタンディングバーがオススメとのことだ。田口さんに連れられ、パブリックスタンドに着いた。時刻は21時頃。中はかなりの賑わいを見せていた。

パブスタ

たまたま近くの席が空いたので僕らはそこを拠点として動くことにした。田村さんは周りを見渡すと突然腰を上げ、店の奥の方に向かった。向かった方向に目を向けると、仕事帰りのOL風な綺麗な2人組がいた。大好物だ。

田口さん曰く、こういうスタンディングバーでは目につく子がいたら「あの子にする?」などと話し合わず、すぐに声を掛けた方が良いとのことである。ライバルが多いため、どの子にするか、どっちが話しかけるかなどを相談しているうちに、綺麗な子は他の男に取られてしまう。田口さんがお酒を持ちながら、少し狭そうにしている女性二人に声を掛ける。

「ご予約のー、2名様ですね!お待ちしておりました!ささ、あちらの席どうぞ!」

「え!?あ、はい…」

田口さんはとにかく勢いがすごい。気付いたら女性2人は勢いに飲まれて僕たちが陣取った席についていた。

「それでは今宵も!乾杯!!」

女性2人は怜奈さんと、彩菜さん。2人とも27歳で僕の2個上だ。年上好きの僕としてはたまらない。怜奈さんは女優の波留似で白とネイビーで合わせたオフィスカジュアル、彩菜さんは石原さとみ似で薄いえんじのワンピースをお召しになっていた。

2人ともスタイルが良い上、コリドーではなかなかいないレベルの美人らしく田口さんもテンションが上がっていた。特に怜奈さんの見た目は僕のドストライクだ。

無難な話を少しした後、田口さんが切り出した。

田口「これすごい緊張しながら聞いてるんだけど、2人はどういう人がタイプなの?」

先程のボケの特訓の成果を出すときのようだ。

彩菜「全然緊張してないじゃん(笑)んー何かに熱中してる人!」

僕「僕めっちゃパズドラに熱中してます!仕事中もずっとやってる。」

田口「ちゃんと仕事しろよww怜奈ちゃんは?」

怜奈「ベタだけど、優しい人かな」

怜奈さんの満杯のグラスを指しながら僕は言う。

「ドリンクおかわりいる?」

怜奈「まだ満杯ww」

ナンパの声掛けもそうであるが、物を使うとボケやすい。

田口「女の子って結構優しい人っていうけど、それはみんなに優しい人?それともやっぱり私だけに優しい人?」

怜奈「みんなに優しい人かなぁ。」

僕「草木や自然にも?」

怜奈「うん、そう笑」

僕「このサラダに水をあげよう。」

怜奈&彩菜「www」

2人の反応はかなりいい。

乾杯複数

盛り上がりの中、突然田口さんの携帯が鳴った。画面を見て田村さんの顔が渋くなる。

「ごめん、これ出なきゃいけないやつだ!」

そう言い残し、田口さんは外に出て電話に出た。

『すまん、クライアントから緊急の用事でちょっと事務所戻らなきゃいけなくなった。』

電話中の田口さんから僕にラインが入った。どうやらこの美女2人を僕1人で対処しなければいけないようだ。自信は、なかった。

「田口さん、ちょっと時間かかるみたい!」僕は困り顔で2人に伝えた。

僕が怜奈さんと彩菜さんの2人と話していると、奥にいる彩菜さんの方に2人組の男が話しかけてきた。見るからにイケイケな少し輩風の男と優男風イケメンのペアであり、僕より少し上くらいの年齢層だ。

男2人

最初は僕と怜奈さんが2人で話し、男2人と彩菜さんが3人で話すという形になっていたが、徐々に男2人が僕と怜奈さんも会話に巻き込んできた。

「これ、俺が作った広告なんだ!」

「オリンピック見たい?協賛企業に言えば2人の席用意できると思うよ!」

輩風の男は広告会社勤務のようで、スケールの大きい話をポンポンと出しながら、徐々に身体を僕と怜奈さんの間に入れてくる。どうやら広告男は僕を話題から外し、4人で話すのを狙っているようであった。話に入れず手持ち無沙汰の中、ハイペースでお酒を飲んでいたため、気付くと僕のグラスは空になっていた。

「あれ、お兄さんグラス空いてるじゃん!酒頼んできなよ?」

広告男が目ざとく指摘してくる。

「それじゃ買ってこようかな。」

僕は注文カウンターに行った。カウンターは少し並んでいた。ハイボールを頼み、席に戻ろうと振り返ると、そこには広告男がいた。

「今2-2でいい感じだからお兄さん、どっか行ってもらっていい?」

広告男は不躾に言ってくる。

「いや、僕が喋ってた子だし。」

「君全然喋らないじゃんwwあの場にいてもしょうがないでしょwwあの子達も絶対俺らといた方が楽しいってwそれじゃww」

僕の一応の反論も虚しく、広告男は早口でまくしたてると席に戻って行った。たしかにあの場にいても気まずい思いをするだけだ。これを飲んだら外に出よう、そう思い隅で1人ハイボールを飲んだ。

怜奈さんはかなりタイプだった。スタイルの良い健康的な美人。ノリが良いのに所々に出る育ちの良さそうな所作。そんなタイプな女性と話していたのに、いきなり割って入って来た男達を前に何もできなかった自分に苛立ちを感じていた。

(そういえば、連絡先すら聞いてないや。)

ちょっと会話に自信がついたと思ったところでの失敗に消沈する。

(田口さんには悪いけど、もうナンパはやめようかな。)

ウイスキー

グラスの残りが少なくなり帰ろうとした頃、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。

振り返るとそこには怜奈さんが立っていた。

「よっ!洋平くん全然戻って来なかったから。」

「あ、ごめんごめん!」

驚いて謝ったが、何がごめんなのかは自分でもよくわからなかった。いきなり話しかけられ上手く言葉が出てこなかったのだ。

「広告の彼が、洋平くんは他の女の子ナンパしてるって言ってたけど、違うんじゃないかなーと思って探しにきちゃった!」

「怜奈さんと話しちゃったら他の子をナンパする気なんて起きませんよ!」

怜奈さんが自分を探しに来てくれた喜びで会話に調子が戻ってきた。

そのまま少し怜奈さんと話していると、奥から広告男がやってきた。

「怜奈ここにいたん?こっち戻っておいでや!」

(くそ、また邪魔しに来やがった…)

怜奈さんと話す時間が終わってしまうことに僕は焦りを感じていた。引き留める言葉を探すが、イケイケを前にすると上手い言葉が出てこない。

(ここまでか…)

僕が諦めかけた時、連れて行こうとする広告男に怜奈さんは言った。

「私、洋平くんと飲んでるから先戻ってていいよ。」

すると広告男はこちらを一瞥して言った。

「あ、この人まだいたんだ。こんな陰キャ置いといてあっちで楽しもうぜww」

先程より少し酔っているのか、言葉遣いがさらに悪くなっている。失礼な彼に僕は怒りを感じていた。とはいえ、広告男は典型的なイケイケのパリピであり、怜奈さんとしてもそっちで飲んでた方が楽しいに違いないと思うと、なにも反論ができなかった。

僕が何も言い返せないでいると、隣の怜奈さんが信じられないことを言った。

「私は君と飲んでるより、洋平くんと飲んでた方が楽しいかな。」

「え?」思わず声が出た。僕は聞き間違いじゃないかと思った。

「は?こいつと話してて面白いの?ww」

広告男は半笑いで聞き返す。どうやら聞き間違いではないようだ。

「うん。君ってずっと自分の話してるだけじゃん。初対面の男の自慢話ほどつまらないものってないよ。」

広告男の顔が見る見る真っ赤になっていく。

「君、モテないでしょ?」

怜奈さんが追い打ちをかける。

「のやろ、調子乗んなよ!」

そう言ったかと思うと、彼の右手が怜奈さんの胸元に伸びた。

「きゃっ」怜奈さんが声をあげる。

僕は咄嗟に広告男の腕を掴んだ。

そして、彼を床に組み伏せた。

子供の頃から合気道と野球を習っており、大学では野球部の主将をしていた僕は体力にだけは自信があった。

「女性に暴力振るのはよくないんじゃないですか?」

広告男が苦しそうに呻く。

「わかった!わかったから離してくれ!」

洋平が腕を離すと、広告男は「調子乗んなよ、陰キャ!ブス!」と言いながら逃げるように去って行った。

やっと怜奈さんと2人で話せるようになった。

「なんか怜奈さんに庇ってもらっちゃった。」

「むしろ洋平くん凄過ぎじゃない?笑。助けてくれてありがとう。」

「コミュニケーションは苦手だけど、力仕事は任せて笑」

「私はほんとに広告の彼と話すより洋平くんと話してる方が楽しかったよ。彼に暴言吐いちゃったけど、普段こんなこと言わないからね笑。洋平くんのことインキャとか言うからカチンときちゃって。」

それから僕と怜奈さんは少しの間話をした。23時半頃、怜奈さんの終電が近いということだったので僕達は連絡先を交換した。

「今度デートに誘っていいですか?」

「ふふ、いいよ。連絡待ってるね。」

怜奈さんの承諾に僕は歓喜した。帰り道、田口さんにラインで今日の出来事を報告した。田口さんは途中で抜けたことを謝ってくれたが、色々な経験ができたので結果オーライである。

満足のいく結果を出し、僕はコリドーという街がまた好きになった。

男女乾杯

今週の学び

・会話ではボケとツッコミを入れることを意識!

・好きな異性のタイプの会話はボケの宝庫!

・初対面の男の自慢話はつまらない。

(fin.)

次回:コリドー街で3人組をナンパ!勢いのあるトークを刮目せよ。

第4話

コリドーの童貞さん vol.2

梶山洋平。
早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。
フツメン。
25歳。
彼女いない歴25年。
童貞。

これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。

第1話はこちら

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田村さんと初めて会った日から1週間後の金曜日。僕は田村さんとコリドーにいた。
「洋平はナンパするのは初めてなんだよね?」

「自分で声を掛けるのは初めてです。」
僕が答えると、田村さんはさらに質問を続けた。

「洋平はナンパの成功って何だと思う?」
ナンパの成功、考えたことはなかったが、僕は思った通りに答えた。

「んーやることですか?」

「それはもちろん成功だけど、俺はそれだけが『ナンパの成功』ってわけじゃないと思ってるんだよね。」

「それじゃあラインを聞くこととかですか?」

「それも答えとは違う。」

「んー」僕がそれ以上の解答を思いつかないでいると、田村さんは答えた。

ナンパの成功は女の子に声をかけることだ。女の子に声をかけた時点で、そのナンパは成功だ。」

僕はその理由を聞いた。

「ナンパするときって結構男は言い訳しちゃってなかなか話しかけられなかったりするんだよ。前に声かけた男が全然相手されてないとか、まだ来たばかりだからもうちょっと様子見ようとか、片方があんまりかわいくないんじゃね?とか。けどそんな言い訳はいいからとにかく声を掛けた方がいいんだよ。」

僕は確かにと思った。周りを見ると声を掛けずに地蔵のようにたたずむ男たちがたくさんいる。

地蔵

「とりあえず声を掛けたらそのナンパは成功。引っかからなかったら次に行けばいい。特に最初のうちはどんどん声を掛けることが大事だ。それじゃ洋平声掛けしてみよっか。」

田村さんに促され、僕は人生で初めてのナンパを始める。
僕はどちらかというと緊張しがちなタイプである。初めてのナンパにかなりの緊張を覚えていた。

「大丈夫、声を掛けた時点で洋平の初めてのナンパは成功だ。」
そういうと田村さんは僕の背中を軽くたたいた。

ナンパの成功は声を掛けること。とにかく声を掛けよう。
僕は覚悟を決め、前を歩いている二人組に声を掛けた。

「すみません、今から飲みに行きませんか?」

女性二人はこちらを軽く見たが、「大丈夫でーす。」と言うと去って行ってしまった。
撃沈だ。
そこから僕は10組ほどに声を掛けたが、反応は同じような感じで、飲みに行くことはできなかった。

撃沈

消沈してる僕に田村さんが言う。
「洋平!とにかく声かけたことで一歩前進だよ!声掛けなんて失敗してなんぼなんだから失敗しても気を落とさない!」

田村さんは慰めの言葉をかけてくれた。そして、それに続けてアドバイスをしてくれる。
「その上でだが、声を掛けた子と飲みに行くことがナンパの次のステップだ。まず、声を掛けるときは、『ナンパをするぞ!』っていうスイッチを入れること。それで軽快なトーンで自信を持って話しかける。おどおどしてる奴についてくる女なんていないからな。ナンパは一種のプレゼンテーションだと思った方がいい。」

たしかに今の僕の声掛けは明らかに自信のない奴のナンパだった。社内のプレゼンでも自信をもって話すことは大事だと上司に言われる。それだけで説得力が増すのだ。

「あとはぶっちゃけ『飲み行きません?』だけじゃこっちが相当のイケメンじゃない限り女の子はついてこない。コリドーの女は一日100人以上に声を掛けられるんだからな。」

コリドーでは、女性は少し歩いただけで男に声を掛けられる。少しかわいい子であれば声掛け男性が順番待ちをしているほどだ。

田村さんはアドバイスを続けた。
「何人もの男から声かけられる以上、他の男達との差別化が必要だ。声掛けでは、意外性と相手に突っ込ませることが大事だ。とりあえず俺が見本見せるから。」

そう言って田村さんは歩き出す。
前方から女性二人組がこちらに向かって歩いてきた。すると、田村さんはおもむろに道においてある赤い三角コーンを持ち、その二人組に近づく。

三角コーン

「お姉さん!これバックから落ちましたよ!」

女性二人は田村さんの方を見て少し驚いた顔をしたが、すぐにその顔から笑いが漏れた。
「ちょwこんなのバック入れてませんよw」

「またまたー現場帰りでしょ??」

「違いますよw見たまんまのOLです!」

いい感じで和んだところで田村さんは僕を呼んでくれた。2人のレベルは中の中といったところである。
雰囲気良く話ができていたため、僕はこのままこの2人とどこかに飲みに行けるなと考えていた。しかし、2~3分話したところで田村さんは言った。
「それじゃ今度また飲み行きましょ!ライン教えてください!」

その場はライン交換をして解散した。
僕は田村さんに何故飲みに行かなかったのか聞いてみた。

「あの子たち普通だったじゃん。さっきとりあえずどんどん声を掛けろって言ったけど、声を掛けた後飲みに行くかは別の問題よ。あんまり可愛くない子でも声を掛けてるとどんどん舌が滑らかになるからウォーミングアップにはなるけど、飲みに行くのはやっぱかわいい子がいいじゃん。」

田村さんの言うとおり、僕も今の女性2人と話したことで少しウォーミングアップができた感じがする。
とりあえず声を掛けろという教えは、かわいくない子は早めに切るという方針とセットなのだ。

アップ

「それじゃ洋平、もう一回声掛けしてみよっか。正直会話だけでいきなり意外性出すのは難しいから持っているものを使ってみるってのも考え方の一つだな。」

僕はビジネスバックの中を見た。入っているのは財布やキーケース等のいつもの携帯品と、愛読書の東京カレンダーという雑誌だ。この雑誌は毎号表紙に美しい芸能人の写真を使っている。今月号は川口春奈だ。僕はこれは使えるかもと思った。

僕は女性と話すのは苦手だが、社内のプレゼンなどは結構得意な方だ。「これはプレゼンだ。」僕は自分に暗示をかけ、ナンパスイッチを入れた。

前から女性2人が歩いて来たので僕は東京カレンダーを持って横に並ぶと、田村さんの教え通り、軽快なトーンを意識して話しかけた。
「待って、お姉さんこの表紙の人??あ、違うか!一瞬川口春奈かと思った!」

女性2人の目線が僕の持つ東京カレンダーに落ちる。2人の歩みは遅くなった。

「待って、東京カレンダーウケるw」
片方の子が反応してくれた。

「今日は川口春奈並みに可愛い子にしか声を掛けないって決めてたんだよね!やっと声かけられる人がでてきたよ!」
実際、片方の女性は、川口春奈とまではいかないが結構可愛い子であった。生地感のよさそうな薄手のニットを着ており、服装も僕の好みであった。もう片方の子は目が細く、中の中といった感じだ。

「それみんなに言ってるでしょw」
川口春奈の方はけっこう乗り気な感じがする。しかし、いかんせん目が細い方の反応は良いとは言えない状況であった。そこに、田村さんが来てくれた。

「お姉さんが一番似てる芸能人俺知ってるわ。北川景子!今日DAIGO実家帰ってるみたいだから一杯飲んでこうよ!」

「北川景子wwお兄さんお世辞がうますぎw」

「何言ってんの?俺はお世辞は言わないから。今日もまだ30回くらいしか言ってないよ?」

「めっちゃ言うじゃないですかw」
目の細い子の様子が見てわかる程度に変わった。あとで田村さんに聞いたが、ナンパで飲みに行くには、可愛くない方の気分をいかによくしてあげるかが大事であるということだ。ちなみに田村さんはいつも、目が細い子は北川景子、地味な子は堀北真希に似ていると言ってあげるらしい。

北川

「それじゃ軽く飲みいこっか!」
タイミングを見て僕が言うと、2人はすんなりとついてきてくれた。
初めての連れ出し成功。僕は田村さんに駆け寄り思い切りハイタッチをしたかった。スラダンの桜木と流川が山王戦でそうしたように。しかし女性2人の手前、心の中でガッツポーズをするだけにとどめておいた。

飲みに行く場所は田村さんに選んでもらい、toroというメキシカンの店に行った。田村さん曰く、コリドーで女性を捕まえた場合、行く場所が決まらなくてグダることは避けなければならない。そのため、ナンパ後飲みに行く店はいくつか押さえておく必要があるとのことだ。とりあえず、Bee、OCEAN HOUSE、リゴレット、ライム、土風炉、スナッパー、ディプント、toroあたりは押さえておくといいとのことだ。

結局その日は4人で朝まで飲んで解散した。
田村さんは僕と川口春奈をくっつけようとしてくれていたが、「面白い人が好き」という川口春奈に僕のたどたどしいトークはあまり刺さらなかったようだ。声掛けは田村さんの教えのとおりにやってなんとかなったが、長時間飲んだためにトーク力のなさが露呈してしまったのだ。

飲みは田村さんが回してくれたこともあり女性2人はとても楽しんでいるようだった。田村さんが僕にも話を振ってくれるので僕自身も楽しかった。
ただ、田村さんがいなければきっとその場は回っていなかったということはわかる。一人前になるためには僕自身で女の子を楽しませることができなければならないはずだ。

このような課題は残ったが、僕は初めてナンパをして女性と飲みに行ったことに充足感を得ていた。自分ではナンパなんて絶対無理だと思っていたけど、やればできるものだ。帰りの始発電車の中、僕はうとうとしながらも、既に来週の金曜日が楽しみになっていた。

始発

今週の学び
・ナンパの成功は声を掛けること。
・声掛けはプレゼン。軽快なトーンで自信を持って声を掛ける。
・声掛けで大事なのは意外性。

(fin.)

次回:ナンパ初心者でもできる!女の子を楽しませる会話のポイント

第3話

コリドーの童貞さん Vol.1

梶山洋平。
早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。
フツメン。
25歳。
彼女いない歴25年。
童貞。

これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。
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乾杯


「洋平の童貞歴25年に!カンパイ!!」

僕は今日、25歳になった。祝ってくれる彼女は、いない。

「洋平は顔はたしかにブサメン寄りのフツメンだけどそれなりに喋れるんだから卒業できてもいいのにな」

毎年、僕の誕生日は中学からの親友の幸雄が祝ってくれる。
幸雄は今年司法試験を受けて合格発表待ち。暇な時間を使って合コンやナンパばかりしている。直前に受けた模試では全国2位の成績を出しており、今年の司法試験合格は確実とみられている。顔は普通だが、頭の良さを全く感じさせない軽いキャラで女の子とはそれなりに遊べているようだ。

「自己評価はフツメンよりのフツメンだわ!」
僕はザ・フツメンだ。一見してモテるといった顔立ちではないが、こういう顔を好きな人もたまにはいるだろうなというあまり特徴のない一重顔である。

「ほんとお前は男同士なら喋れるけど女の子の前じゃ緊張して全く喋れないよなw」

「幸雄が初対面の女と話せすぎなだけで、おれはたぶん標準だよ」

幸雄が言う通り、僕は女性と話すのがあまり得意ではない。中学から女子がほとんどいない早稲田の付属校に入っており、青春時代は野球に捧げてきた。大学時代も野球部に所属しており、女遊びをあまり経験できなかったのだ。

「25歳のうちにマジで卒業してやる!」

「去年は25歳までに卒業って言ってたよな笑」

「お前、今に見てろよ!俺は今までの数年間の闇を一気に晴らしてくれるような絶世の美女に筆おろしをしてもらうんだからな!」

酒も回ってきて気分がよくなり、大口をたたいた直後、奥の方から見覚えのある人物が歩いてきた。

スーツ

「田村さん!」
幸雄が身を乗り出してその男に声を掛けた。

身長が高く、高級そうなスーツに身を包んだその男は田村健という。僕らの大学の二個上の先輩であり、「タムケンとラインを交換したら次の日には子供が産まれる」という噂が立つほど学内では有名な遊び人であった。顔はというと、色黒の馬面でフツメンだが、全体的にスタイリッシュであり、いわゆる雰囲気イケメンといわれる部類に属するので、女子からはモテる。

「おおー幸雄!久しぶりだな」

僕は田村さんを一方的に知っているだけだが、幸雄は大学院時代に田村さんにお世話になっている。田村さんは、幸雄と同じ大学院に進んでおり、二年前に司法試験に合格している。

「田村さん、いきなり事務所設立したらしいじゃないですか!大手に内定もらってるって聞いてたから驚きましたよ!」

田村さんは1年目から年収1000万円以上をもらえるような大手事務所から内定をもらっていたが、朝まで働くのが当たり前の労働環境を嫌がって内定を断ったらしい。

「大きいところで歯車になっても面白くねえじゃねーか。しかも大手に行ったらコリドーに来る暇がなくなっちまう、俺の中のプライオリティー1位はコリドーなんだよ!」

「よっ、さすがコリドーの主!」

田村の事務所はコリドー街から徒歩5分のところにあるのだが、その場所に事務所を作ることを決めた理由は、「仕事後すぐにナンパしに行けるため」らしい。彼曰く、職場からナンパスポットへの移動の時間は機会損失なのだそうだ。

「幸雄たちはなんで男2人で飲んでんの?」

田村の問いに幸雄が僕の方を見てにやにやしながら答える。

「今日はこいつの誕生日で記録更新を祝ってやってるんです。」

田村さんが僕の方を見た。

「洋平、25歳、童貞です!田村さんのことは大学時代からご存じでした。」

田村さんは笑いながらも少し驚いているようだ。
「(笑)君面白いね。洋平君は本当に童貞なの?」

僕は「恥ずかしながらそうです」と答える。
僕は田村さんに彼女ができたことがないことや、男同士なら普通に話せるのに女の子の前だと軽い気持ちで話せないことを話した。
「洋平君は、卒業したいの?」
田村さんが尋ねる。

「卒業に対する想いだけは誰にも負けないつもりです!」
僕の力強い言葉に田村さんは深く頷く。

「よし!それはいい!ちょうど俺がいつも一緒にナンパしてた相棒が先週から1年間留学に行っちまったんだ。洋平君、俺の相棒になってくれ。そうすればすぐ卒業できるはずだ。」

田村さんからの突然のバディのお誘いに僕は困惑した。今まで僕は幸雄やほかの友達にナンパに行こうと誘われても上手くしゃべれないからと断ることが多かったし、たまにナンパに行ったとしてもあまりしゃべれないまま幸雄に気を遣わせてしまうことが多かった。

「けど、僕、戦力にならないし…」

田村さんが真っすぐこちらを見つめ、尋ねてきた。

「俺が童貞を卒業したの、いつだと思う?」

「小5とかっすか?」
僕が答えないでいると、隣の幸雄が茶化した。

「実は大学2年の夏、20歳を超えてからなんだ」

「えーまじっすか⁉」
僕らが大学に入学したときには田村さんは既にヤリチンで有名だったのだが、その1年前には童貞だったという事実に驚いた。

「幸雄、童貞はなんで童貞なんだと思う?」

「んー顔がブスとか、陰キャラとか、性格がくそ悪いとか、ですかねー」

「僕を間接的にディスるな笑」

こういうことをオブラートに包まずあけすけに言うところが幸雄のいいところでも危なっかしいところでもある。

しかし、田村さんは言った。
「全部不正解だ」
田村さんは続ける。
「童貞が童貞なのは、童貞だからだ。」

酔っているせいもあるのか、何か深いことを言っているように聞こえる。
とは言っても何を言っているかよくわからなかったので田村さんに補足をしてもらった。

「童貞が童貞を卒業できない理由は、童貞ゆえの自信のなさや経験値のなさが理由なんだ。女性と飲んでいてあと一押しで抱ける状況ってのはよくあるんだ。そのような状況になった場合、童貞なのか、そうじゃないのか、一歩踏み出せるか、踏み出せないかで結果が決まる。大事なのはメンタリティだ。」

僕は田村さんの話に引き込まれていた。

「俺はこれからナンパを通して洋平君に脱童貞のメンタリティを教えていく。もちろん童貞じゃない男にも役に立つものだ。」

「ナンパのテクニックとかも教えてほしいです。」

「もちろん、それも教える。俺と一緒にナンパすることでどうやって声をかければいいか、どういう話をすればいいかもわかってくるはずだ。」

「ぜひお願いします師匠!」

握手

かくして、この日から僕は、毎週金曜日は田村さんと一緒にナンパをすることが決まった。
この物語は童貞の僕が大いなる卒業の日を迎えるまでの手記だ。
田村さんの教えは童貞の僕にはもちろん役立つものであったし、普段からナンパをしている人にも気付きを与えるものだと思う(ナンパの声掛け例や連れ込み後の会話例を毎話示すつもりだ)。
3~5分で読める記事を数回にわたって連載する予定なので、暇つぶしにでも読むと気付けば君のナンパ力が向上しているはずだ。

(fin.)

次回!ナンパの成功とは?声掛けの方法について田村さんが教える。

第2話