梶山洋平。
早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。
フツメン。25歳。彼女いない歴25年。
童貞。
これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。
第1話はこちら
第2話はこちら
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初めてナンパをした日から1週間後の金曜日、僕は再びコリドーにいた。ナンパが楽しいと思い始めてきた僕は、金曜日が待ち遠しくて仕方がなかった。
20時頃に集合した僕と田口さんはコリドー入り口にある焼肉トラジに腹ごしらえに行った。焼肉を頬張りながら、先週の反省会をする。
「先週の子、かなりタイプだったんですけど、緊張もあって何喋ればいいか全然わかりませんでした。」
「川口春奈ね(第2話参照)!たしかに可愛かった!よし!今日はナンパで連れ出した後の会話について検討しようか。」
「お願いします!」
「まず、大前提として、可愛いからって気後れしたら基本的にその子を手に入れることはできないと思った方がいい。」
田口さんは続ける。
「女は相手が自分より格下だと思ったら基本はついてこない。だからおどおどした態度だと綺麗な子を落とすのは難しい。」
「なるほど、意識してみます!」
「それじゃあトークについて話そう。」
田口さんは今日の本題に入る。
「トークについては人それぞれ考え方があると思うけど、最初のうちはボケとツッコミを会話に入れることを意識するのが大事だと思う。」

「ボケと、ツッコミですか?」
「そうだ。女性が話す事や女性からの質問に常にボケかツッコミで笑いをいれて返すのを意識するんだ。」
「それは百戦錬磨の田村さんだからできるんですよ!」
「もちろん慣れもあるし、ツッコミは奥が深いと言われてて、初心者では難しかったりもする。だけどボケは、入れやすいポイントを掴めば初心者でもできることだと思うよ。」
「ポイントですか?」
「そう。特にボケを入れやすい話題は、好きな男性のタイプの話題だ。合コンやナンパだとだいたいこの手の話題になるし、和んできたら自分からこの質問を入れちゃっていい。」
「なるほど、たしかによくある話題ですね。あとで実践してみます!」
「洋平みたいに男の中では普通に話せるし面白いことを言えるけど、女性の前ではうまく話せないタイプは、この自信とボケを意識すれば結構しゃべれるようになると思う。少し特訓してみようか。」
田口さん曰く、ボケはとにかく頭の回転の訓練であるということだ。僕はしばらく田口さんが出す好きな異性のお題に対してボケで答えるという訓練をした。
「それじゃそろそろ行くか。」
僕と田口さんが外に出ると、予報外れの強い雨が降っていた。
「これじゃあナンパ、きついですね。」
僕が言うと田口さんはスタンディングバーに行こうと提案してくれた。雨など外でのナンパがつらい日にはスタンディングバーがオススメとのことだ。田口さんに連れられ、パブリックスタンドに着いた。時刻は21時頃。中はかなりの賑わいを見せていた。

たまたま近くの席が空いたので僕らはそこを拠点として動くことにした。田村さんは周りを見渡すと突然腰を上げ、店の奥の方に向かった。向かった方向に目を向けると、仕事帰りのOL風な綺麗な2人組がいた。大好物だ。
田口さん曰く、こういうスタンディングバーでは目につく子がいたら「あの子にする?」などと話し合わず、すぐに声を掛けた方が良いとのことである。ライバルが多いため、どの子にするか、どっちが話しかけるかなどを相談しているうちに、綺麗な子は他の男に取られてしまう。田口さんがお酒を持ちながら、少し狭そうにしている女性二人に声を掛ける。
「ご予約のー、2名様ですね!お待ちしておりました!ささ、あちらの席どうぞ!」
「え!?あ、はい…」
田口さんはとにかく勢いがすごい。気付いたら女性2人は勢いに飲まれて僕たちが陣取った席についていた。
「それでは今宵も!乾杯!!」
女性2人は怜奈さんと、彩菜さん。2人とも27歳で僕の2個上だ。年上好きの僕としてはたまらない。怜奈さんは女優の波留似で白とネイビーで合わせたオフィスカジュアル、彩菜さんは石原さとみ似で薄いえんじのワンピースをお召しになっていた。
2人ともスタイルが良い上、コリドーではなかなかいないレベルの美人らしく田口さんもテンションが上がっていた。特に怜奈さんの見た目は僕のドストライクだ。
無難な話を少しした後、田口さんが切り出した。
田口「これすごい緊張しながら聞いてるんだけど、2人はどういう人がタイプなの?」
先程のボケの特訓の成果を出すときのようだ。
彩菜「全然緊張してないじゃん(笑)んー何かに熱中してる人!」
僕「僕めっちゃパズドラに熱中してます!仕事中もずっとやってる。」
田口「ちゃんと仕事しろよww怜奈ちゃんは?」
怜奈「ベタだけど、優しい人かな」
怜奈さんの満杯のグラスを指しながら僕は言う。
「ドリンクおかわりいる?」
怜奈「まだ満杯ww」
ナンパの声掛けもそうであるが、物を使うとボケやすい。
田口「女の子って結構優しい人っていうけど、それはみんなに優しい人?それともやっぱり私だけに優しい人?」
怜奈「みんなに優しい人かなぁ。」
僕「草木や自然にも?」
怜奈「うん、そう笑」
僕「このサラダに水をあげよう。」
怜奈&彩菜「www」
2人の反応はかなりいい。

盛り上がりの中、突然田口さんの携帯が鳴った。画面を見て田村さんの顔が渋くなる。
「ごめん、これ出なきゃいけないやつだ!」
そう言い残し、田口さんは外に出て電話に出た。
『すまん、クライアントから緊急の用事でちょっと事務所戻らなきゃいけなくなった。』
電話中の田口さんから僕にラインが入った。どうやらこの美女2人を僕1人で対処しなければいけないようだ。自信は、なかった。
「田口さん、ちょっと時間かかるみたい!」僕は困り顔で2人に伝えた。
僕が怜奈さんと彩菜さんの2人と話していると、奥にいる彩菜さんの方に2人組の男が話しかけてきた。見るからにイケイケな少し輩風の男と優男風イケメンのペアであり、僕より少し上くらいの年齢層だ。

最初は僕と怜奈さんが2人で話し、男2人と彩菜さんが3人で話すという形になっていたが、徐々に男2人が僕と怜奈さんも会話に巻き込んできた。
「これ、俺が作った広告なんだ!」
「オリンピック見たい?協賛企業に言えば2人の席用意できると思うよ!」
輩風の男は広告会社勤務のようで、スケールの大きい話をポンポンと出しながら、徐々に身体を僕と怜奈さんの間に入れてくる。どうやら広告男は僕を話題から外し、4人で話すのを狙っているようであった。話に入れず手持ち無沙汰の中、ハイペースでお酒を飲んでいたため、気付くと僕のグラスは空になっていた。
「あれ、お兄さんグラス空いてるじゃん!酒頼んできなよ?」
広告男が目ざとく指摘してくる。
「それじゃ買ってこようかな。」
僕は注文カウンターに行った。カウンターは少し並んでいた。ハイボールを頼み、席に戻ろうと振り返ると、そこには広告男がいた。
「今2-2でいい感じだからお兄さん、どっか行ってもらっていい?」
広告男は不躾に言ってくる。
「いや、僕が喋ってた子だし。」
「君全然喋らないじゃんwwあの場にいてもしょうがないでしょwwあの子達も絶対俺らといた方が楽しいってwそれじゃww」
僕の一応の反論も虚しく、広告男は早口でまくしたてると席に戻って行った。たしかにあの場にいても気まずい思いをするだけだ。これを飲んだら外に出よう、そう思い隅で1人ハイボールを飲んだ。
怜奈さんはかなりタイプだった。スタイルの良い健康的な美人。ノリが良いのに所々に出る育ちの良さそうな所作。そんなタイプな女性と話していたのに、いきなり割って入って来た男達を前に何もできなかった自分に苛立ちを感じていた。
(そういえば、連絡先すら聞いてないや。)
ちょっと会話に自信がついたと思ったところでの失敗に消沈する。
(田口さんには悪いけど、もうナンパはやめようかな。)

グラスの残りが少なくなり帰ろうとした頃、突然後ろから誰かに肩を叩かれた。
振り返るとそこには怜奈さんが立っていた。
「よっ!洋平くん全然戻って来なかったから。」
「あ、ごめんごめん!」
驚いて謝ったが、何がごめんなのかは自分でもよくわからなかった。いきなり話しかけられ上手く言葉が出てこなかったのだ。
「広告の彼が、洋平くんは他の女の子ナンパしてるって言ってたけど、違うんじゃないかなーと思って探しにきちゃった!」
「怜奈さんと話しちゃったら他の子をナンパする気なんて起きませんよ!」
怜奈さんが自分を探しに来てくれた喜びで会話に調子が戻ってきた。
そのまま少し怜奈さんと話していると、奥から広告男がやってきた。
「怜奈ここにいたん?こっち戻っておいでや!」
(くそ、また邪魔しに来やがった…)
怜奈さんと話す時間が終わってしまうことに僕は焦りを感じていた。引き留める言葉を探すが、イケイケを前にすると上手い言葉が出てこない。
(ここまでか…)
僕が諦めかけた時、連れて行こうとする広告男に怜奈さんは言った。
「私、洋平くんと飲んでるから先戻ってていいよ。」
すると広告男はこちらを一瞥して言った。
「あ、この人まだいたんだ。こんな陰キャ置いといてあっちで楽しもうぜww」
先程より少し酔っているのか、言葉遣いがさらに悪くなっている。失礼な彼に僕は怒りを感じていた。とはいえ、広告男は典型的なイケイケのパリピであり、怜奈さんとしてもそっちで飲んでた方が楽しいに違いないと思うと、なにも反論ができなかった。
僕が何も言い返せないでいると、隣の怜奈さんが信じられないことを言った。
「私は君と飲んでるより、洋平くんと飲んでた方が楽しいかな。」
「え?」思わず声が出た。僕は聞き間違いじゃないかと思った。
「は?こいつと話してて面白いの?ww」
広告男は半笑いで聞き返す。どうやら聞き間違いではないようだ。
「うん。君ってずっと自分の話してるだけじゃん。初対面の男の自慢話ほどつまらないものってないよ。」
広告男の顔が見る見る真っ赤になっていく。
「君、モテないでしょ?」
怜奈さんが追い打ちをかける。
「のやろ、調子乗んなよ!」
そう言ったかと思うと、彼の右手が怜奈さんの胸元に伸びた。
「きゃっ」怜奈さんが声をあげる。
僕は咄嗟に広告男の腕を掴んだ。
そして、彼を床に組み伏せた。
子供の頃から合気道と野球を習っており、大学では野球部の主将をしていた僕は体力にだけは自信があった。
「女性に暴力振るのはよくないんじゃないですか?」
広告男が苦しそうに呻く。
「わかった!わかったから離してくれ!」
洋平が腕を離すと、広告男は「調子乗んなよ、陰キャ!ブス!」と言いながら逃げるように去って行った。
やっと怜奈さんと2人で話せるようになった。
「なんか怜奈さんに庇ってもらっちゃった。」
「むしろ洋平くん凄過ぎじゃない?笑。助けてくれてありがとう。」
「コミュニケーションは苦手だけど、力仕事は任せて笑」
「私はほんとに広告の彼と話すより洋平くんと話してる方が楽しかったよ。彼に暴言吐いちゃったけど、普段こんなこと言わないからね笑。洋平くんのことインキャとか言うからカチンときちゃって。」
それから僕と怜奈さんは少しの間話をした。23時半頃、怜奈さんの終電が近いということだったので僕達は連絡先を交換した。
「今度デートに誘っていいですか?」
「ふふ、いいよ。連絡待ってるね。」
怜奈さんの承諾に僕は歓喜した。帰り道、田口さんにラインで今日の出来事を報告した。田口さんは途中で抜けたことを謝ってくれたが、色々な経験ができたので結果オーライである。
満足のいく結果を出し、僕はコリドーという街がまた好きになった。

今週の学び
・会話ではボケとツッコミを入れることを意識!
・好きな異性のタイプの会話はボケの宝庫!
・初対面の男の自慢話はつまらない。
(fin.)
次回:コリドー街で3人組をナンパ!勢いのあるトークを刮目せよ。
→第4話
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