ナンパに慣れてきた25歳の童貞リーマン洋平。
今宵はコリドー街にて3人組でのナンパにチャレンジする。
第1話はこちら
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金曜日がやってきた。21時頃、僕は田口さんと、僕の親友で田口さんの後輩である幸雄(第1話参照)とコリドー街のスタバ前で集合した。
「洋平、今日は初めての3人でのナンパだな!」
田口さんが言う。
「高まってきました!」
僕が答えると幸雄が横から茶化してくる。
「田口さんとナンパしてちょっとは成長したか?ww」
幸雄と会うのは3週間ぶりだ。先週、先々週とナンパをして少し慣れてきた僕の力を親友に見せる時が来た。
「それじゃ男女3-3以上の飲みのポイントだけど‥」
田口さんが続ける。
「これまでのコンビのとき以上に勢いが大事になってくる。」
「勢いですね。」
ふと対向車線を見ると、ついさっきまで僕の隣にいたはずの幸雄が女性3人組に声を掛けていた。学生時代ずっとキャッチをやっていた彼はとにかく動き出しが早い。
「大人数の場では、思い付いたらどんどんボケを放り投げてっていい。そして周りがどんどんツッコんで場を温めていく。」
「けどそんなボケを入れようとしても滑ったらどうしようって思っちゃうんですよね。。」
「滑ってもいいんだよ。もし滑ったら周りの奴が『滑ってるよ』って指摘して酒を飲ませればその流れすら場を温める追い風になるんだ。」
「なるほど。」
「あとは男でじゃんじゃん酒を飲むこと。ナンパとか合コンで大切なのは、女に酒を飲ませるんじゃなくて、女が酒を飲みたくなる場を作ることだ。」
「男同士でめっちゃ飲んでると女の子もなんだかんだノリで結構飲みますよね!」
声掛けが失敗したのか、いつの間にか僕の隣に戻ってきていた幸雄が言う。
「そうそう。幸雄の勢いと飲みっぷりはすごいから、洋平の参考にもなると思うよ。」
「お褒めの言葉、光栄です!」
僕らが話していると、有楽町方面から女性3人組が歩いてくるのが見えた。
僕が視認した時には既に幸雄は女性3人組の方に向かっていた。
「今日の合コンは何点でしたか!」
スナッパーの前で女性陣の横に並んだ幸雄が話し掛ける。
「え!何で合コンって分かったんですか!」
女性の1人が反応した。
「だって合コンハズレだったからコリドー来ましたオーラばりばり出てますやん!」幸雄が答える。
「どんなオーラw」
「奇跡的に3-3で人数比も一致してるしここで軽く飲もうよ!スタバの系列なんだよね。」
僕も続く。
「いやスナッパーじゃんw」
女性陣の反応は悪くなさそうだ。
「どうする?」
3人は話し合いを始めた。
「俺達も今日の合コンハズレで途方に暮れてたところなんだよね。こっから合コン2回戦始めようぜ!」
田口さんが最後の一押しをしてくれた。この人は本当に息を吐くように嘘をつく。
「じゃあ行こっか!」
無事合意が成立し、僕達はスナッパーに入った。
ここで今日の対戦表を紹介しよう。
【男性陣】
・田口さん(弁護士。27歳)
・幸雄(司法試験合格発表待ちのニート。25歳)
・僕(銀行員。25歳)
【女性陣】
・優奈(ハーフ系の美人。24歳)
・莉子(薄めの顔で並みを少し超えたくらいの可愛さ。24歳)
・和子(澤穂希のガタイを良くした感じ。可愛くない。25歳)
田口「合コン相手はなんの人達だったの?」
席に着くと田口さんが切り出した。
優奈「外銀の人達!」
幸雄「良さそうじゃん!何で1次会で解散になったん?」
優奈「んーあんまり勢いがなかった笑」
外銀は元々真面目な人が多いため、お金を持って遊ぶようになっても、商社などと比べると勢いがないらしい。
田口「もしかして3人はぶち上げ系の方々?」
莉子「ぶち上げ系ってなにw」
田口「外銀達からちゃんとタスキは受け取ったから、俺らで3人のぶちあげを引き出そう。」
僕「そうですね!引き出して、このタスキをしっかり次の走者に繋げましょう!」
優奈「繋げるんかいww」
幸雄「そこはゴールを目指せw」
ナンパの回数を重ねるうちに、僕もこのような男女の場でそれなりに会話ができるようになってきた実感があった。
話しているうちに全員の酒が揃う。
「それじゃあ合コン2回戦、乾杯!」
「かんぱーい!」
戦いが始まった。
簡単に全員が名前を言ったところで一番美人でノリも良さそうな優奈が口を開いた。
優奈「なんで幸雄君だけ私服なの?」
幸雄「おれ?ニートだからだよ。」
僕「幸雄は今年司法試験受けて合格発表待ちなのよ。」
莉子「じゃあ弁護士になるんだ!」
幸雄「9割落ちてニートのままだけど、合格して弁護士になれる1%の可能性に賭けてる。」
田口「あとの9パーどこいったんだよw」
幸雄「今自宅で筋トレ中です。」
田口「幸雄、滑ってるよ。はい飲んでー!!」
幸雄「くううぅ!いただきやす!!」
幸雄が目の前にあるハイボールを空にする。こんなことを言っているが幸雄の司法試験合格はほぼ確実だ。
幸雄「頑張って飲んだことに免じて1個聞いていい?好きな男のタイプは?」
幸雄が莉子に話を振る。
莉子「たくさん食べる人かなー」
幸雄「焼肉30人前くださーい!」
僕「じゃあ僕は50人前ください!」
田口「ここメキシカンだよ。」
莉子「wwww」
田口「和子ちゃんは?」
まだ少し馴染めていない感じの和子に田口が話を振る。可愛くない子のこともちゃんとケアする田口さんはやっぱりすごいなと僕は思う。
和子「私はあんまり冒険しないタイプの人が好きかな。」
田口「俺はマサラタウンからずっと出ないタイプだよ。」
幸雄「今日もコリドーに冒険きてるじゃないすかw」
田村「おっと、こんなところにポッポが3匹。」
僕「ポッポは失礼ですよw」
優奈「ひどーいw」
幸雄「田口さん、女の子怒ってるんで飲んでください!」
田村「失礼しました!いただきます!!」
田口さんも目の前のビールを空ける。どんどんボケを投げ、ツッコミ、男が自ら酒を飲む。この繰り返しにより短い時間で場があったまってきたのを感じる。
幸雄「優奈ちゃんは?」
優奈「タイプとかはあんまりないかなぁ。付き合うタイプはいつもばらばら!」
幸雄「バラバラなタイプの中でも共通項はないの?最大公約数的な!」
優奈「タイミングかなぁ」
田口「恋愛においてタイミングは大事だよね。」
幸雄「今日はタイミングどう?」
優奈「んーまだわかんない笑」
幸雄「めちゃめちゃいいってさ!」
僕「勝手にルビ振ったな笑」
優奈「www」
田口さんと幸雄はテンポの良い会話で女性達の笑いを作っていく。
幸雄「てか今聞く限り3人のタイプってだいたい俺らじゃん。一回みんなで乾杯しよ。」
「かんぱーい!」
そこからはテンポ良く進んだ。女性陣がノリも良く飲める子達ということが分かったので、幸雄が途中でポセイドン(※ テキーラショットガンが30shots入ったプレート)を頼み、みんなで乾杯を繰り返した。
田口さん曰く、コリドーで抱く時の基本の流れは以下のようだ。
1軒目(飲み屋)→2軒目(カラオケorダーツor宅飲み)→セパ(男女ペアに別れる)
盛り上がりの中、幸雄がカラオケに行こうと打診し、女性陣から快諾をもらった。
「合コン終わりの友達が1人合流したいって言ってるんですけどいいですか?」
莉子が僕達に聞いてくる。
女性が増えるのは大歓迎だ。
「おっけい!幸雄誰か男呼べる?」田口さんが言う。
「ちと探してみますね!」
そう言って幸雄は何人かに電話を始めた。この時の僕達は知る由もなかった。莉子が呼んだ女がとてつもなくビッチであることを。
「こういうみんなでめちゃくちゃ飲んで友達合流したりする回は抱ける可能性高いぞ。」
田口さんが僕に耳打ちする。
僕は期待を込めてカラオケに向かった。
スナッパーからカラオケへの移動中、僕は田口さんから教えられたカラオケでの戦い方を思い出していた。
「まずこれはナンパや合コンに限らず、社会人のカラオケの基本だけど‥」
田口さんは続ける。
「カラオケは自分の歌いたい曲じゃなくて、盛り上がる曲を歌うところだ。」
できるサラリーマンはトレンド曲はもちろん、上司の世代に流行った曲をちゃんと押さえてるとのことだ。
「そんで合コンやナンパでは、機を見てカラオケコールを入れてみんなで酒を飲もう。このサイトにまとめてあるから暇な時見ておきな。」
そう言って田口さんはURL(http://tokyo-namcale.com/gokon/karaoke-call/)を送ってくれた。さくらんぼ、新宝島、キセキあたりはカラオケコールの定番のようだ。
「みんなでくそ飲んで、ぶちあげて、気付いたら男女ペアになってる。それがカラオケの理想系だ。」
期待と不安を胸に僕はカラオケに向かった。
カラオケに着くと、幸雄は1次会の勢いそのままにカラオケコール曲を入れた。するとそれに呼応し、優奈と莉子もカラオケコール曲を入れ始める。
想像以上に飲み会慣れした優奈と莉子に僕は少しビビり始めていたが、田口さんに言われて事前にカラオケコールの予習をしていたので何とか食らいつくことができた。
何曲か歌っていると、合流組の男女がやってきた。
男性は幸雄の学部時代の友人の弘樹。シュッとした雰囲気イケメンでそれなりに女にモテそうだ。
女性の名前は恵美。クラスで2,3番目に可愛い子というレベル感で、一定数の男から絶大な人気を誇るだらしのないたぬき顔だ。既にかなり酔っ払っているようだった。
2人が来てからもカラオケコールは少し続いたが、気付けばみな男女ペアで話す雰囲気になっていた。
幸雄は最初から優奈がお気に入りだったようで2人で楽しそうに話をしている。
莉子は意外と肉食なのか先程から隣の田口さんへのボディタッチが激しい。
遅れてきた弘樹と恵美は馴染み切れていない者同士2人で酒を飲んでいた。
僕の隣にはブスの和子がいた。
「洋平君って私と同じタイプだと思うんだよね。あんまりこういう飲み会得意じゃないでしょ?」
「う、うん。そうだね。和子ちゃんは格闘タイプかな?」
「もうっ!」和子のボディータッチはまるで鉄球で殴られたようだ。僕は自分の肩が外れていないことを確認する。
それからも和子のアタックは続いた。澤穂希に似ているだけあって、1対1になった時のオフェンスで力を発揮するタイプのようだ。てきとうにあしらいたかったが、「1人のブスの反逆がその場全体を壊すことがある」と田口さんに教えられていたので、頑張って会話を続けた。
しばらくすると和子はトイレに立った。どっと疲れた僕はソファに深く座り溜息をつく。そのままサッカーでもしてきてくれよと心の中で悪態をついた。
すると、和子と入れ違いに部屋に入ってきた恵美が僕の隣に座った。どうやら弘樹はトイレに行っているようだ。
(僥倖‥!なんという僥倖‥!)
恵美は僕の好みのタイプではなかったが、澤穂希強化版より全然良かったし、何より巨乳だった。
「さくらんぼ歌いたーい!」
席に着くなり恵美は言ってきた。
「さっき誰か歌ってたけど、まいっか!歌おうぜ!」
デンモクに曲を入れ、隣を見ると恵美がうずくまる姿勢になっていた。
酔って気持ち悪いのかもしれない。
「大丈夫?」
僕が聞くと、恵美はいきなり僕の手を握ってきた。
(え‥?)
僕が固まっていると、恵美はなんと、僕の指を突然舐め始めたのだ。
僕は何が起きているかわからなかった。恵美はうずくまっているので、周りから見たら僕がただ介抱しているように見えるだろう。
真っ白になった頭が徐々に冴えていく。1分くらい経っただろうか?恵美はまだ僕の指を舐めていた。
僕は以前した幸雄との会話を思い出していた。
「幸雄は合コンしまくってるけど何がそんな楽しいの?」
「女と飲んでるとさ、来るんだよ。この子抱けるわ。って瞬間がさ。その瞬間がたまんねぇんだよ。」
当時の僕は何を言っているのか理解できなかった。
しかし、今ならわかる。その瞬間は、今この時だ。
深呼吸を1回してから僕は恵美に声を掛ける。
「一緒に帰ろっか。」
うずくまったまま、恵美は頷いた。
僕達は速やかに身支度をした。
「酔っちゃったみたいなんで、一緒に外出ます。」
僕は田口さんに一言声を掛けた。莉子にくっつかれている田口さんは僕に向かってこっそりガッツポーズをした。
部屋の外に出ると弘樹と和子が話していた。一瞬弘樹と目が合ったような気がしたが、僕は2人に声を掛けずエレベーターホールに進む。
エレベーターを待つ時間はとても長く感じられた。僕と恵美はエレベーターに乗り込み、6階から1階まで降りた。
1階のエントランスに着くと、そこには弘樹が立っていた。どうやら息を切らしているようだ。
僕は会釈だけして恵美と一緒に横を通り過ぎようとする。
「ちょっと待ってくれ。」
仁王立ちでこちらを見る弘樹の目は真剣だ。
「恵美酔ってるみたいだから行くね!」
「ちょっと待ってくれ。」
どうやらこの門番は進ませてはくれないらしい。
「どしたの?」僕が尋ねる。
「恵美とは俺、いい感じだったんだよ。」
弘樹が続ける。
「だから頼む!!今日は譲ってくれ!!」
弘樹は頭を下げた。
「ちょい待ってくれよ、今は俺が恵美と一緒に帰ろうってなってるんだよ。」
頭を下げられたところでこっちにも引けない理由はある。僕には卒業がかかってるんだ。
「俺がおかしいことを言ってるのは分かってる。けど恵美のことめちゃくちゃタイプなんだ。今止めなきゃ絶対後悔するから。だから、頼む!」
…
…
僕は部屋のドアを開けた。
「おかえり。」
そこには満面の笑みの、和子がいた。
結局僕は弘樹に恵美を譲って、カラオケルームに戻ってきたのだ。
『カラオケは自分が歌いたい曲ではなく、盛り上がる曲を歌う』
やけくそになった僕は大事な教えを無視し、尾崎豊の『卒業』を熱唱した。
今週の学び
・男女3-3以上の飲みは勢いが大事。思い付くままにボケを投げまくり、滑ったら周りが『滑ってるよ』と指摘して酒を空ける。
・ナンパや合コンで大切なのは、女に酒を飲ませるんじゃなくて、女が酒を飲みたくなる場を作ること。
・カラオケは自分が歌いたい曲ではなく、盛り上がる曲を歌う。
・敵は身内にあり。
(fin.)
次回!コリドーで出会った美女、怜奈とデート!デートの会話法を伝授!
→第5話