コリドーの童貞さん vol.2

梶山洋平。
早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。
フツメン。
25歳。
彼女いない歴25年。
童貞。

これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。

第1話はこちら

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田村さんと初めて会った日から1週間後の金曜日。僕は田村さんとコリドーにいた。
「洋平はナンパするのは初めてなんだよね?」

「自分で声を掛けるのは初めてです。」
僕が答えると、田村さんはさらに質問を続けた。

「洋平はナンパの成功って何だと思う?」
ナンパの成功、考えたことはなかったが、僕は思った通りに答えた。

「んーやることですか?」

「それはもちろん成功だけど、俺はそれだけが『ナンパの成功』ってわけじゃないと思ってるんだよね。」

「それじゃあラインを聞くこととかですか?」

「それも答えとは違う。」

「んー」僕がそれ以上の解答を思いつかないでいると、田村さんは答えた。

ナンパの成功は女の子に声をかけることだ。女の子に声をかけた時点で、そのナンパは成功だ。」

僕はその理由を聞いた。

「ナンパするときって結構男は言い訳しちゃってなかなか話しかけられなかったりするんだよ。前に声かけた男が全然相手されてないとか、まだ来たばかりだからもうちょっと様子見ようとか、片方があんまりかわいくないんじゃね?とか。けどそんな言い訳はいいからとにかく声を掛けた方がいいんだよ。」

僕は確かにと思った。周りを見ると声を掛けずに地蔵のようにたたずむ男たちがたくさんいる。

地蔵

「とりあえず声を掛けたらそのナンパは成功。引っかからなかったら次に行けばいい。特に最初のうちはどんどん声を掛けることが大事だ。それじゃ洋平声掛けしてみよっか。」

田村さんに促され、僕は人生で初めてのナンパを始める。
僕はどちらかというと緊張しがちなタイプである。初めてのナンパにかなりの緊張を覚えていた。

「大丈夫、声を掛けた時点で洋平の初めてのナンパは成功だ。」
そういうと田村さんは僕の背中を軽くたたいた。

ナンパの成功は声を掛けること。とにかく声を掛けよう。
僕は覚悟を決め、前を歩いている二人組に声を掛けた。

「すみません、今から飲みに行きませんか?」

女性二人はこちらを軽く見たが、「大丈夫でーす。」と言うと去って行ってしまった。
撃沈だ。
そこから僕は10組ほどに声を掛けたが、反応は同じような感じで、飲みに行くことはできなかった。

撃沈

消沈してる僕に田村さんが言う。
「洋平!とにかく声かけたことで一歩前進だよ!声掛けなんて失敗してなんぼなんだから失敗しても気を落とさない!」

田村さんは慰めの言葉をかけてくれた。そして、それに続けてアドバイスをしてくれる。
「その上でだが、声を掛けた子と飲みに行くことがナンパの次のステップだ。まず、声を掛けるときは、『ナンパをするぞ!』っていうスイッチを入れること。それで軽快なトーンで自信を持って話しかける。おどおどしてる奴についてくる女なんていないからな。ナンパは一種のプレゼンテーションだと思った方がいい。」

たしかに今の僕の声掛けは明らかに自信のない奴のナンパだった。社内のプレゼンでも自信をもって話すことは大事だと上司に言われる。それだけで説得力が増すのだ。

「あとはぶっちゃけ『飲み行きません?』だけじゃこっちが相当のイケメンじゃない限り女の子はついてこない。コリドーの女は一日100人以上に声を掛けられるんだからな。」

コリドーでは、女性は少し歩いただけで男に声を掛けられる。少しかわいい子であれば声掛け男性が順番待ちをしているほどだ。

田村さんはアドバイスを続けた。
「何人もの男から声かけられる以上、他の男達との差別化が必要だ。声掛けでは、意外性と相手に突っ込ませることが大事だ。とりあえず俺が見本見せるから。」

そう言って田村さんは歩き出す。
前方から女性二人組がこちらに向かって歩いてきた。すると、田村さんはおもむろに道においてある赤い三角コーンを持ち、その二人組に近づく。

三角コーン

「お姉さん!これバックから落ちましたよ!」

女性二人は田村さんの方を見て少し驚いた顔をしたが、すぐにその顔から笑いが漏れた。
「ちょwこんなのバック入れてませんよw」

「またまたー現場帰りでしょ??」

「違いますよw見たまんまのOLです!」

いい感じで和んだところで田村さんは僕を呼んでくれた。2人のレベルは中の中といったところである。
雰囲気良く話ができていたため、僕はこのままこの2人とどこかに飲みに行けるなと考えていた。しかし、2~3分話したところで田村さんは言った。
「それじゃ今度また飲み行きましょ!ライン教えてください!」

その場はライン交換をして解散した。
僕は田村さんに何故飲みに行かなかったのか聞いてみた。

「あの子たち普通だったじゃん。さっきとりあえずどんどん声を掛けろって言ったけど、声を掛けた後飲みに行くかは別の問題よ。あんまり可愛くない子でも声を掛けてるとどんどん舌が滑らかになるからウォーミングアップにはなるけど、飲みに行くのはやっぱかわいい子がいいじゃん。」

田村さんの言うとおり、僕も今の女性2人と話したことで少しウォーミングアップができた感じがする。
とりあえず声を掛けろという教えは、かわいくない子は早めに切るという方針とセットなのだ。

アップ

「それじゃ洋平、もう一回声掛けしてみよっか。正直会話だけでいきなり意外性出すのは難しいから持っているものを使ってみるってのも考え方の一つだな。」

僕はビジネスバックの中を見た。入っているのは財布やキーケース等のいつもの携帯品と、愛読書の東京カレンダーという雑誌だ。この雑誌は毎号表紙に美しい芸能人の写真を使っている。今月号は川口春奈だ。僕はこれは使えるかもと思った。

僕は女性と話すのは苦手だが、社内のプレゼンなどは結構得意な方だ。「これはプレゼンだ。」僕は自分に暗示をかけ、ナンパスイッチを入れた。

前から女性2人が歩いて来たので僕は東京カレンダーを持って横に並ぶと、田村さんの教え通り、軽快なトーンを意識して話しかけた。
「待って、お姉さんこの表紙の人??あ、違うか!一瞬川口春奈かと思った!」

女性2人の目線が僕の持つ東京カレンダーに落ちる。2人の歩みは遅くなった。

「待って、東京カレンダーウケるw」
片方の子が反応してくれた。

「今日は川口春奈並みに可愛い子にしか声を掛けないって決めてたんだよね!やっと声かけられる人がでてきたよ!」
実際、片方の女性は、川口春奈とまではいかないが結構可愛い子であった。生地感のよさそうな薄手のニットを着ており、服装も僕の好みであった。もう片方の子は目が細く、中の中といった感じだ。

「それみんなに言ってるでしょw」
川口春奈の方はけっこう乗り気な感じがする。しかし、いかんせん目が細い方の反応は良いとは言えない状況であった。そこに、田村さんが来てくれた。

「お姉さんが一番似てる芸能人俺知ってるわ。北川景子!今日DAIGO実家帰ってるみたいだから一杯飲んでこうよ!」

「北川景子wwお兄さんお世辞がうますぎw」

「何言ってんの?俺はお世辞は言わないから。今日もまだ30回くらいしか言ってないよ?」

「めっちゃ言うじゃないですかw」
目の細い子の様子が見てわかる程度に変わった。あとで田村さんに聞いたが、ナンパで飲みに行くには、可愛くない方の気分をいかによくしてあげるかが大事であるということだ。ちなみに田村さんはいつも、目が細い子は北川景子、地味な子は堀北真希に似ていると言ってあげるらしい。

北川

「それじゃ軽く飲みいこっか!」
タイミングを見て僕が言うと、2人はすんなりとついてきてくれた。
初めての連れ出し成功。僕は田村さんに駆け寄り思い切りハイタッチをしたかった。スラダンの桜木と流川が山王戦でそうしたように。しかし女性2人の手前、心の中でガッツポーズをするだけにとどめておいた。

飲みに行く場所は田村さんに選んでもらい、toroというメキシカンの店に行った。田村さん曰く、コリドーで女性を捕まえた場合、行く場所が決まらなくてグダることは避けなければならない。そのため、ナンパ後飲みに行く店はいくつか押さえておく必要があるとのことだ。とりあえず、Bee、OCEAN HOUSE、リゴレット、ライム、土風炉、スナッパー、ディプント、toroあたりは押さえておくといいとのことだ。

結局その日は4人で朝まで飲んで解散した。
田村さんは僕と川口春奈をくっつけようとしてくれていたが、「面白い人が好き」という川口春奈に僕のたどたどしいトークはあまり刺さらなかったようだ。声掛けは田村さんの教えのとおりにやってなんとかなったが、長時間飲んだためにトーク力のなさが露呈してしまったのだ。

飲みは田村さんが回してくれたこともあり女性2人はとても楽しんでいるようだった。田村さんが僕にも話を振ってくれるので僕自身も楽しかった。
ただ、田村さんがいなければきっとその場は回っていなかったということはわかる。一人前になるためには僕自身で女の子を楽しませることができなければならないはずだ。

このような課題は残ったが、僕は初めてナンパをして女性と飲みに行ったことに充足感を得ていた。自分ではナンパなんて絶対無理だと思っていたけど、やればできるものだ。帰りの始発電車の中、僕はうとうとしながらも、既に来週の金曜日が楽しみになっていた。

始発

今週の学び
・ナンパの成功は声を掛けること。
・声掛けはプレゼン。軽快なトーンで自信を持って声を掛ける。
・声掛けで大事なのは意外性。

(fin.)

次回:ナンパ初心者でもできる!女の子を楽しませる会話のポイント

第3話

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