コリドーの童貞さん Vol.1

梶山洋平。
早稲田大学出身の社会人三年目の銀行員。
フツメン。
25歳。
彼女いない歴25年。
童貞。

これはそんな洋平がコリドー街でのナンパで童貞を卒業すべく奮闘する物語である。
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乾杯


「洋平の童貞歴25年に!カンパイ!!」

僕は今日、25歳になった。祝ってくれる彼女は、いない。

「洋平は顔はたしかにブサメン寄りのフツメンだけどそれなりに喋れるんだから卒業できてもいいのにな」

毎年、僕の誕生日は中学からの親友の幸雄が祝ってくれる。
幸雄は今年司法試験を受けて合格発表待ち。暇な時間を使って合コンやナンパばかりしている。直前に受けた模試では全国2位の成績を出しており、今年の司法試験合格は確実とみられている。顔は普通だが、頭の良さを全く感じさせない軽いキャラで女の子とはそれなりに遊べているようだ。

「自己評価はフツメンよりのフツメンだわ!」
僕はザ・フツメンだ。一見してモテるといった顔立ちではないが、こういう顔を好きな人もたまにはいるだろうなというあまり特徴のない一重顔である。

「ほんとお前は男同士なら喋れるけど女の子の前じゃ緊張して全く喋れないよなw」

「幸雄が初対面の女と話せすぎなだけで、おれはたぶん標準だよ」

幸雄が言う通り、僕は女性と話すのがあまり得意ではない。中学から女子がほとんどいない早稲田の付属校に入っており、青春時代は野球に捧げてきた。大学時代も野球部に所属しており、女遊びをあまり経験できなかったのだ。

「25歳のうちにマジで卒業してやる!」

「去年は25歳までに卒業って言ってたよな笑」

「お前、今に見てろよ!俺は今までの数年間の闇を一気に晴らしてくれるような絶世の美女に筆おろしをしてもらうんだからな!」

酒も回ってきて気分がよくなり、大口をたたいた直後、奥の方から見覚えのある人物が歩いてきた。

スーツ

「田村さん!」
幸雄が身を乗り出してその男に声を掛けた。

身長が高く、高級そうなスーツに身を包んだその男は田村健という。僕らの大学の二個上の先輩であり、「タムケンとラインを交換したら次の日には子供が産まれる」という噂が立つほど学内では有名な遊び人であった。顔はというと、色黒の馬面でフツメンだが、全体的にスタイリッシュであり、いわゆる雰囲気イケメンといわれる部類に属するので、女子からはモテる。

「おおー幸雄!久しぶりだな」

僕は田村さんを一方的に知っているだけだが、幸雄は大学院時代に田村さんにお世話になっている。田村さんは、幸雄と同じ大学院に進んでおり、二年前に司法試験に合格している。

「田村さん、いきなり事務所設立したらしいじゃないですか!大手に内定もらってるって聞いてたから驚きましたよ!」

田村さんは1年目から年収1000万円以上をもらえるような大手事務所から内定をもらっていたが、朝まで働くのが当たり前の労働環境を嫌がって内定を断ったらしい。

「大きいところで歯車になっても面白くねえじゃねーか。しかも大手に行ったらコリドーに来る暇がなくなっちまう、俺の中のプライオリティー1位はコリドーなんだよ!」

「よっ、さすがコリドーの主!」

田村の事務所はコリドー街から徒歩5分のところにあるのだが、その場所に事務所を作ることを決めた理由は、「仕事後すぐにナンパしに行けるため」らしい。彼曰く、職場からナンパスポットへの移動の時間は機会損失なのだそうだ。

「幸雄たちはなんで男2人で飲んでんの?」

田村の問いに幸雄が僕の方を見てにやにやしながら答える。

「今日はこいつの誕生日で記録更新を祝ってやってるんです。」

田村さんが僕の方を見た。

「洋平、25歳、童貞です!田村さんのことは大学時代からご存じでした。」

田村さんは笑いながらも少し驚いているようだ。
「(笑)君面白いね。洋平君は本当に童貞なの?」

僕は「恥ずかしながらそうです」と答える。
僕は田村さんに彼女ができたことがないことや、男同士なら普通に話せるのに女の子の前だと軽い気持ちで話せないことを話した。
「洋平君は、卒業したいの?」
田村さんが尋ねる。

「卒業に対する想いだけは誰にも負けないつもりです!」
僕の力強い言葉に田村さんは深く頷く。

「よし!それはいい!ちょうど俺がいつも一緒にナンパしてた相棒が先週から1年間留学に行っちまったんだ。洋平君、俺の相棒になってくれ。そうすればすぐ卒業できるはずだ。」

田村さんからの突然のバディのお誘いに僕は困惑した。今まで僕は幸雄やほかの友達にナンパに行こうと誘われても上手くしゃべれないからと断ることが多かったし、たまにナンパに行ったとしてもあまりしゃべれないまま幸雄に気を遣わせてしまうことが多かった。

「けど、僕、戦力にならないし…」

田村さんが真っすぐこちらを見つめ、尋ねてきた。

「俺が童貞を卒業したの、いつだと思う?」

「小5とかっすか?」
僕が答えないでいると、隣の幸雄が茶化した。

「実は大学2年の夏、20歳を超えてからなんだ」

「えーまじっすか⁉」
僕らが大学に入学したときには田村さんは既にヤリチンで有名だったのだが、その1年前には童貞だったという事実に驚いた。

「幸雄、童貞はなんで童貞なんだと思う?」

「んー顔がブスとか、陰キャラとか、性格がくそ悪いとか、ですかねー」

「僕を間接的にディスるな笑」

こういうことをオブラートに包まずあけすけに言うところが幸雄のいいところでも危なっかしいところでもある。

しかし、田村さんは言った。
「全部不正解だ」
田村さんは続ける。
「童貞が童貞なのは、童貞だからだ。」

酔っているせいもあるのか、何か深いことを言っているように聞こえる。
とは言っても何を言っているかよくわからなかったので田村さんに補足をしてもらった。

「童貞が童貞を卒業できない理由は、童貞ゆえの自信のなさや経験値のなさが理由なんだ。女性と飲んでいてあと一押しで抱ける状況ってのはよくあるんだ。そのような状況になった場合、童貞なのか、そうじゃないのか、一歩踏み出せるか、踏み出せないかで結果が決まる。大事なのはメンタリティだ。」

僕は田村さんの話に引き込まれていた。

「俺はこれからナンパを通して洋平君に脱童貞のメンタリティを教えていく。もちろん童貞じゃない男にも役に立つものだ。」

「ナンパのテクニックとかも教えてほしいです。」

「もちろん、それも教える。俺と一緒にナンパすることでどうやって声をかければいいか、どういう話をすればいいかもわかってくるはずだ。」

「ぜひお願いします師匠!」

握手

かくして、この日から僕は、毎週金曜日は田村さんと一緒にナンパをすることが決まった。
この物語は童貞の僕が大いなる卒業の日を迎えるまでの手記だ。
田村さんの教えは童貞の僕にはもちろん役立つものであったし、普段からナンパをしている人にも気付きを与えるものだと思う(ナンパの声掛け例や連れ込み後の会話例を毎話示すつもりだ)。
3~5分で読める記事を数回にわたって連載する予定なので、暇つぶしにでも読むと気付けば君のナンパ力が向上しているはずだ。

(fin.)

次回!ナンパの成功とは?声掛けの方法について田村さんが教える。

第2話

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